大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和47年(行ト)4号 決定

名古屋市中区新栄町七丁目一番地

抗告人

染木木材株式会社

右代表者代表取締役

染木正夫

右代理人弁護士

花村美樹

森洋一

右抗告人は、名古屋高等裁判所昭和四六年(行サ)第一五号更正処分取消請求上告受理事件につき、同裁判所が昭和四七年一月一三日にした上告却下の決定に対し、抗告の申立をしたので、当裁判所は、裁判官全員の一致で、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告理由について。

上告理由書の提出の期間を上告受理通知書の送達を受けた日から五〇日と定めた民訴規則五〇条の規定が憲法三二条に違反するとの所論の理由のないことは、当裁判所昭和二四年(ク)第一三号同年七月二二日大廷決法定(民集三巻八号二八一頁)、昭和三二年(ク)第一一五号同三三年七月一〇日大法廷決定(民集一二巻一一号一七四七頁)、昭和三六(ク)第一七六号同四一年三月一四日第二小法廷決定(民集二〇巻三号四一四頁)の趣旨に徴して明らかである。

その余の論旨は、民訴法四一九条の二第一項所定の適法な抗告理由にあたらない。よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

抗告状

上告人 染木木材株式会社

被上告人 熱田 税務署長

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四六年(行サ)第一五号本件につき同裁判所は、本月一三日上告人が上告理由書を法定の期間内に提出しなかつたことを理由に上告却下の決定をされましたが、不服につき民事訴訟法第四一九条の二により右決定の取消を求めるため本抗告に及びます。

上告人は、たしかに上告期間を遵守しませんでした。しかし漫然徒過したわけではなく、原判決が証拠の取捨選択につき採証の法則を無視した点および更正処分時における法人税法第三一条の三第一項の規定の解釈を誤りこれを本件に適用した点につき判断を仰ぐべく鋭意理由書の作成に当つていたのでありますが及ばず期間を不遵守したものであります。すなわち民事訴訟規則第五〇条の規定は、具体的事件において時に短きに過ぎることがあるものというべきであります。殊に民事訴訟法第二三八条の規定と対比するとき同規則も三月の提出期間を定むべきではなかつたかと思料します。同規則の規定は結局憲法に何人も裁判所において裁判を受ける権判を奪われないとする規定に違反する疑いがありますので本抗告に及ぶ次第でありますが

昭和四七年一月一八日

上告人代理人 森洋一

最高裁判所御中

特別抗告理由書

特別抗告人 染木木材株式会社

被特別抗告人 熱田税務署長

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四七年行(セ)第一号事件につき特別抗告人は抗告状に記載した抗告理由書につき左記のとおり更に詳細に主張する。

昭和四七年二月八日

特別抗告人代理人 森洋一

最高裁判所御中

一、原判決は、抗告人が訴外染木建設株式会社との土地交換により取得した(イ)名古屋市南区千竈通一丁目三九番地宅地二七八坪(ロ)同所四〇番宅地二八六坪計五六四坪の交換時(昭和三四年一月)における時価は坪当り二一、〇〇〇円と認められるとしてこれにより不等価交換の事実を認定した。そうして右時価は、乙第一三号証、一八号証、一一号証、一四号証の一ないし三、第一五号証、第一六号証、第一七号証を綜合して認めたというので右書証を詳細に検討したのであるが、結局証拠の採用につき従うべき法則に反しているのではないかとの疑問を拭うことができない。

a まず乙第一三号証であるが、同証は、財団法人日本不動産研究所の発行したパンフレツト全国市街地価格指数中の第三表地域別六大都市市街地価格推移指数表である。被抗告人が主張する売買実例が本件の交換時と時点を異にするので時点修正を行うために使用したもので原判決も認定の証拠として挙示される以上これを利用されたとおもう。しかし右表中のどの指数を用いて時点修正をされたかわからない。(抗告人が取得した土地は路線商業地域で裏は工業地域である)それに右表係数は東京や大阪などの地価昂騰の激しかつた特殊の地区には妥当しようが本件において問題となつている昭和三三年から昭和三七年に至る間の名古屋地区の地価昂騰率はそれほどでなく右表中のどれを取つてみてもあてはまらない。むしろ抗告人が提出した前記パンフレツト第二表地域別全国市街地価格指数表(甲第一五号)によつて時差修正するのが名古屋地区の現状に合つているし、それに事を大局的に観察するには、極力特殊事例を排斥するとともに観察の対象を拡大することが、慎重を期する裁判の世界では必要ではあるまいか。その意味では第二表によることがよりよいと考えられる。即ち第三表により時差修正を行つて前記土地の坪当り時価を二一、〇〇〇円と認定した原判決は、採用法則に反したのではないかとの疑問が存する。

b 乙第一八号証は、抗告人の取得した前記土地のうち表通り(国道一号線)より最も離れた奥の土地部分三七・七五坪に対する収用等証明書で、昭和三六年の収用当時の収用価格は坪当り二六、〇〇〇円となつている。最も奥の土地の部分の僅かの地積しかないしかも売買価格でもない収用価格が坪当り二六、〇〇〇円であるからといつて被抗告人の主張するように全部の土地の客観的価格が昭和三六年当時には坪当り二六、〇〇〇円であるとするのは明瞭に経験則に反する。殊に抗告人会社の代表者は、愛知県の行う事業には積極的に協力すべき立場にあつたので(この点に関しては被抗告人は争つていない)。坪当り収用価格が時価より相当低いことも承知の上進んで収用に応じた次第である。右土地の当時の時価は、抗告人が昭和四四年八月一二日附準備書面第八項において述べたようにすくなくとも四二、〇〇〇円ないし五〇、〇〇〇円であつたとすることがわれわれの経験に合致する。なお収用された土地の位置が、一番奥の部分であつたことについては被抗告人も争つていない。

c 乙第二一号証は、抗告人の取得した土地と被抗告人の主張する売買事例地の評価証明書で、これをもつて地域差を修正するため被抗告人が使用したもので、原判決もまたこれを利用されたものと考えられる。しかし評価証明書に記載された評価額は、地価そのものを表示するものではないことはもちろんであるが、他の土地との関係的比率を示すことを目的とするものでもない。極端に言えば徴税目的のために定められた数値にすぎずそこには政治的、因襲的な要素が多く含まれている。一般的に言えば都心を離れた周辺部ほど地価の実勢を反映した評価額の改訂が遅れているし周辺部の土地相互間にあつても開発の時期による評価額が区々でありそれだけで比較対照の用に供することはできない。従つて前記パンフレツトの数値のようにとにもかくにも現実の地価を蒐集し分析したものとは本質的に異なるから、余程近くの土地で条件の等しい売買実例でないかぎり評価額のみで抗告人の取得土地の時価を推定すべきではない。

d 乙第一四号証の一、ないし三は、被抗告人が売買事例と称するものの二例でいずれも中部電力株式会社が昭和三二年二人の人物に坪当り一人は約七、五〇〇円他は七、二〇〇円で売却した事実を示す証拠である。この事例の土地は抗告人の取得土地の近くではあるが、売買実例としてその坪当り単価を基準にして事を考えるにはいささか特殊な事例で不適当である。何とならば電力会社が自己の保有する土地を処分するなどということは余程の事情がなければしないことで当然一般の売買価格を下廻ることを想像しなければならない。それに売却土地は、抗告人の取得土地が国道一号線に面している路線商業地域であるのに反し裏通りの住居地域内であるから両箇の土地の客観的価値の開きは、その各々の固定資産税評価額の開き以上のものがある。それをもし実例の売買価額を基準として抗告人の取得土地の時価を推定したら甚だ非現実的な数値が出ることになるか、はたしてその点どの程度まで原判決は考慮されたであろうか。

e 乙第一五号証も、被抗告人が売買事例として挙げる土地売買契約の関係書類である。昭和三六年中の売買で坪当り売買単価は、四万円弱である。しかし売買土地は、抗告人の前記に指摘したように抗告人の取得土地から南々西へ約一粁も離れており被抗告人はこの点につき争つていない。)比較対照の用に供することはc、において述べたように不適当である。なお本売買事例の土地は工業地域内にある。

f 乙第一六号証も売買事例二件を示す関係書類である。一件は、昭和三五年の事例で坪当り売買単価は三〇、〇〇〇円である。右事例は、抗告人の取得した土地から東方約一粁の古くからの住宅群の一箇所で(この点被抗告人は争つていない。)、比較対照には不適当である。殊に売買契約書を見ると、買主はすでに地上に建物を建築し居住中であり、売主の下請工場を経営している関係で代金の支払時期も定めず外注代金で相殺すべきことが約定されておるからとうてい通常の売買事例とするには当らない。更地の通常の売買ならば当然売買値段も高くなるはずである。とにかく右の坪当り四万円弱の単価で被抗告人の言う修正を施して抗告人の取得土地の地価を推定したならば、甚だ不適正な結果が生じよう。なお本事例土地は住居地域内にある。

他の一件の事例は、昭和三七年の売買で坪当り単価は七五、〇〇〇円である。抗告人の取得した土地と同じく国道一号線沿にあるが南へ約一粁離れている(この点相手方は争つていない。)。即ち名古屋市の中心部には抗告人の取得土地より一粁遠い。都心部に離れるに従つて地価は下るのが通例であるが、いずれにせよ一粁離れていれば比較対照の用に供し得ないこと前同様である。なお右事例土地は表は路線商業地域奥は住居地域である。

g 乙第一七号証は、被抗告人のいわゆる土地売買精通者の意見を録取した聴取書であるが、その内容を見ると格別土地売買精通者とおもわせるものもないし、自己の事務所から遠く離れた抗告人の取得土地附近のことはよく知らないようである。即ち抗告人が前記準備書面第八項に述べたように伊勢湾台風時に千通一丁目附近は全く浸水していないのに、千通全体が浸水しているかの如き供述をしている。要するに乙第一七号証も坪当り二一、〇〇〇円の認定の資料としては不充分である。

これを要するに個々の書証から直接坪当り二一、〇〇〇円の認定を引き出すことは困難であるが、さりとてこの書証全部を綜合して考えてもなお右認定を引き出すことは困難である。抗告人自身の誤解があつてはならないとおもい一件記録を何度も検討し、参考資料も求め、種々考えているうち上告理由書提出期間を徒過したのであるが、これは上告理由書提出期間が短きにすぎるためで、ひいては憲法に保障された裁判を受ける国民の権利を阻害するものである。よつて本特別抗告に及ぶものである。

二、なお特別抗告状中にも触れたが、原判決は、不等価交換を認定した上その行為および計算を容認するときは法人税の負担を不当に減少させる結果となるとして法人税法第三一条の三を適用し否認したのであるが、同条を適用するに当つては、特殊例外的な規定であるから適用の条件を厳密に制限しなければならない。同族会社でなくとも本件の如き交換をすることはあるし、それに交換の相手方の染木建設株式会社はその申告を名古屋国税局に是認されている。上級官庁が是認した行為を下級官庁において否認する結果となるような事態は、国民の官庁に対する信頼を裏切ることになり同条を適用すべきでないと考える次第である。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例